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■第1回■ むかしの名前の基本を押さておくと…

 落語でおなじみの登場人物といえば、熊五郎(熊さん)に八五郎(八つぁん)に甚兵衛。お店の小僧は定吉、飯炊きが権助。みんな苗字ではなく下の名前で呼ばれています。商家のあるじが伊勢屋さんで、お武家の家臣なら田中三太夫さん。……どれもわれわれの周りにはあまりいないような名前です。江戸時代には、今と異なる名前のルールがあるみたいですね。
 まずはそこから、調べてみました。

■いまと異なる名前の常識・暗黙のお約束

1)町人や農民には苗字(姓)がなかった
 広く周知の事実だと思いますが、いわゆる「士農工商」のうち、苗字(家の名前)+名(本人の名前)があったのは武士と一部の上層階級(名主や庄屋など)だけで、それ以外は「本人の名前」だけでした。
 落語の舞台は江戸の身分社会、名前にも身分があったようです。

2)名前と「身分や階層」の結びつきが今よりずっと強かった
 名前だけで階層がわかるほどではないけど、武士らしい名前、商人らしい名前、職人らしい名前という「常識」が通用していた。これが落語の登場人物の名付け方にも現れています。

3)人名の前に所番地や仕事をくっつけて区別していた
 苗字がないと同じ名前の人がたくさんになり、いろいろと不便だと思われそうですが、公式には、名前に現住所(町名・番地)や職業、勤務先をつけて呼んだようです。

※「苗字(名字)・姓・氏」には、本来それぞれ異なる意味があって、区別されていますが、複雑なので詳しくは省略し、本稿では「苗字」で統一します。区別が必要だと判断したときだけ、捕捉することにします。

■江戸の人名のフォーマット

 江戸時代の公文書などで見かける人名には、次のように共通の書式があります。
【職人】【小商人】なら
 
 江戸    浅草    三軒町  [家主]源兵衛店 大工職 八五郎
(都市名)(広域地名) (町名)    (住居名)  (職業) (人名)

 長屋に住む職人や小商人で、家持ちでない借家人は必ず誰かの「店子(たなこ)」ということで、住所のうしろに家主の名前が入ります。『大工調べ』『三方一両損』などのお白洲の場面で大岡越前守が、町人をこんな感じで呼んでいるので、聞き耳を立ててみてください。
 ※実は江戸の場合「家主」は、たいがい本当の地主でなく地主に雇われた管理人だけど、それはまた別の話。

【大店の伜】なら
 江戸  日本橋  田所町三丁目  日向屋  半兵衛  伜  時次郎
         (町名・丁目) (屋号) (親の名)(続柄)(人名)


 これは『明烏』で若旦那が茶屋のお内儀に名乗った台詞です。店舗を構える商家の主人は「屋号」が姓の代わりになり、日常的な通称としても使われていました。「三河屋さん」「相模屋さん」という感じです。

【百姓】であれば、
 
 上野国  佐位郡  国定村  小作人   長岡忠治
 (国名) (郡名) (村名)(身分・職業)(人名)


という感じ。国は現在の「県」に相当し、郡は「こおり」と読み、だいたい今の市・郡に相当しますね。

 さて、武家は苗字を名乗れるので、苗字+名が基本形ですが、エライ人ほど苗字に加えて「本姓(ほんせい)」だの「氏(うじ)」だのがくっつくし、「名」の部分もとても複雑なので、とりあえずキホンだけ(詳しくは→さむらいの巻で)。

【殿様(大名・旗本)】
 浅野     内匠頭     長矩
 (苗字)(通称:官位や職名)(諱)

【それ以外】
 大石    内蔵助   良雄
 (苗字) (通称)  (諱)


 武士には二つの「名」があって、場面に応じて使い分けます。諱は「いみな」と読んでこれが本来の名前(≒本名)なんです。
 なぜ本名が「いみな」(≒忌み名)と言われるのか。それが日本の人名の奥深いところですねえ。いろんな理由が指摘されていますが、ひとつには、歴史的に日本では名前を秘密にする(隠す)ことがよしとされたこと。そのため、公式にというか表向きには「通称」を使っていました。殿様の場合には与えられた「官位」あるいは「職名」が通称になります。(目上の)身内や親しい人は本名で呼んだようです。

 武家でなくても、江戸時代には名前に変わる「呼び名」がいろいろ用いられています(今でも「主任さん」「校長先生」「床屋さん」などというのと似ていますね)。呼び名についてもいずれ調べていきたいと思います。

 ……いやはや、今回は落語からだいぶ話がそれましたね。次回以降は、落語世界に戻って、登場する人物の名前をなまかじりしてみましょう。
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テーマ : 落語・演芸
ジャンル : お笑い

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